私の好きな現代短歌

戦争をこばみ得ざりし口惜しさが今日の新しき決意となる          岩間正男  太平洋戦争を拒否できなかった悔しさが、戦争反対の今日の新しい決意となった。  一九四九(昭和二四)年、米ソ冷戦が激化し、平和を願う世界の人々が危機感を持つ。フランスの科学者ジョリオ・キュリーなどが、「世界平和会議」の開催を呼びかけ、日本にも招待状が届く。労農党の大山郁夫を団長とする日本代表団が結成され、正男も選ばれた。しかしフランス政府は日本代表団の入国を許可しなかった。  パリよりの入国査証を待つわれら日々にあふれくる決意しずめて  「戦争はもうごめんです」というこの子の顔の歪みは見のがしかねつ  母を呼び死にゆきにける兵士らにいまぞ応えんとこの母のさけび

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501万葉集全釈

 柿本朝臣人麻呂(かきのもとあそみひとまろ)の歌三首 五〇一 娘子(をとめ)らが袖布留山(そでふるやま)の瑞垣(みづかき)の久しき時ゆ思ひきわれは  娘たちが袖を振るという袖布留山の神社の瑞垣のように長い間あなたのことを恋しく思っていましたよ私は  「娘子らが袖布留山の瑞垣の」までが、「久しき」を導き出す序詞である。神社の瑞垣は長い時を経ているから。  ゆ=~から き=過去

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私の好きな現代短歌258

進まねば退ぞくほかないところまでぎりぎりぎっちゃくのそのところまで   岩間正男  情勢は逼迫し、一歩踏み出さなければ退歩するギリギリの所まで来ている。  教員組合の代表として参議院議員になり、教育・文化政策を中心に活動を続けてきたが、政治全般の問題が危機に瀕し、議員個人の活動ではどうにもならないことに気づいた。議員活動を通じて、共産党の政策が自分と一番一致することを実感し、誘われて入党を決意する。まだ「アカ」「国賊」の偏見が強い一九四九(昭和二四)年二月だった。  たかぶりもためらいもなしと言わば言い過ぎんこの夜入党宣言をひとり書きつつ  入党をかつて戒めこし母の手紙かかるよろこびを知りたまわねば  蚊帳の闇に煙草ひからせいる夜半の思いに沁みて鳴く虫もなし

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万葉集全釈500

 碁檀越(ごだんをち)が伊勢の国に往った時に、家に留まっていた妻が作った歌一首 五〇〇 神風(かむかぜ)の伊勢の浜荻(はまをぎ)折り伏せて旅寝やすらむ荒き浜辺に 今頃夫は伊勢の浜荻を折り伏せて旅寝をしているだろうか荒れ果てた浜辺で 神風の=伊勢の枕詞 や=疑問 らむ=推量

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私の好きな現代短歌

司直の手おそるる疑獄何々ぞ、昭和電工事件、東洋製粉事件、炭鉱国管事件  岩間正男  司直の手を恐れる疑獄は一体幾つあるのだ。昭和電工事件、東洋製粉事件、炭坑国管事件など。  一九四七(昭和二二)年、片山内閣は炭坑国家管理法案を提出する。それに反対する炭坑主が政党、政府高官に贈賄をする。翌年芦田内閣の時、昭和電工、翌々年東洋製粉は、復興資金融資を巡って、政府高官に贈賄する。それらの事件が国会の不当財産取引調査特別委員会によって追及され、片山内閣、芦田内閣が崩壊し、吉田内閣に繋がっていく。炭坑国管事件の時既に田中角栄の名前が出ている。ただし、裁判では無罪になった。政治を巡る疑獄事件は今も続いている。  不当財委におどおどと裁かるる男いてかくの如きが幅を利かせし

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万葉集全釈(498)

四九八 今のみのわざにはあらず古(いにしへ)の人そまさりて音(ね)にさへ泣きし   今のことだけではない。昔の人は今の人以上に妻を恋しく思って声を上げて泣いたのだ。 のみ=だけ そ=強め 音にさへ=声さえ上げて

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私の好きな現代短歌(256)

 一九四五(昭和二十)年八月十五日、軍国主義一辺倒の日本は突然、平和と民主主義の国に百八十度転換する。突然の価値転換に社会は混沌となる。米ソの冷戦、中国の社会主義化、朝鮮戦争勃発の中で、日本再軍備の動きも始まる。日本の空を米軍機が我が物顔に飛び交う。  爆裂音急降下音とどろきてこの空はそもいずこの空ぞ  立雲にとどろき過ぐる編隊をふたたび狎(な)れて思わじとする  憲法を早やも変えんという声ありまもり得し人権のいくばくかある

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万葉集全釈(497)

四九七 古(いにしへ)にありけむ人も我がごとか妹(いも)に恋ひつつ寝(い)ねかてずけむ 昔の人も今の私のように妻を恋しく思って寝ることができなかっただろうか。 ありけむ=あっただろう かて=できる ず=打ち消し

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万葉集全釈(496)

柿本朝臣人麻呂の歌四首 四九六 み熊野の浦の浜木綿(はまゆうふ)百重(ももへ)なす心は思(おも)へどただに逢(あ)はぬかも 熊野の入り江に生えている浜木綿のように何度も何度も心では思うけれど、直接には逢えないなあ。 浦=入り江 百重=何重にも ただに=直接 かも=感動詠嘆

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私の好きな現代短歌(255)

カルメラ焼きに興ずる妻は子なき華やぎにてさびしかるらし         岩間正男  カルメ(ラ)焼きを楽しんでいる妻は、子どもがいない寂しさから、わざとはしゃいでいるのだろう。  主食の米、麦が足りないので、外国に救援食糧を要請し、キューバから大量の砂糖が届けられた。米の代わりに砂糖の配給を受けた国民は、カルメ焼きで空腹をしのいだ。カルメ焼きをうまく膨らませるのにはコツがいり、子どもたちはそれを楽しんだ。子どものいない正男の妻もそれを楽しんだのだった。  憩いふかくあらんひと日の窓に来てもつれつつやまず白き雌雄の蝶  蕊(しべ)ふかく濡れしダイリ(ダリア)を昼床に寝ながらにして見よという妻が  かたはらに寝息すこやけき妻というかなしきものにふれゆかんとす 混沌をなげくにあらず混沌をひらき進まん主体性をわれは          岩間正男  世の中は混沌としているが、私はそれを嘆いているのではない。主体性を持ちその混沌を切り開いて進むのだ。

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万葉集全釈(495)

四九五 朝日影にほへる山に照る月の飽かざる君を山越しに置きて 朝日が射して来た山に照る月のように見ることに飽きない貴女を、山越に置いて出掛けなければならない。 愛する妻を都に残して、太宰府に赴任する夫の嘆き

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万葉集全釈(494)

四九四 我妹子(わぎもこ)を相知らしめし人をこそ恋のまされば恨めしみ思へ 恋しさがつのってくると、私の愛する人を逢わせ紹介してくれた人を恨めしく思います。

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私の好きな現代短歌(254)

大衆収奪予算というその性格をつきつめにつつ短しこの夜は  岩間正男  大衆を収奪する予算というその性格を追究していると夜は短く、もう夜が明けてきた。  一九四三(昭和二三)年。インフレで物価は高騰する。政府は臨時国会に予算案を提出するが、生活の苦しい国民に重い税金がかかってくる。正男はその予算案の問題点を究明するために、停電の夜蝋燭をつけて徹夜をする。当時、停電が多かった。  蝋涙は垂りやまずして停電の夜半を書きつぐ思いのひとすじ  息つめて物書くひまも蝋の香は流れつつやまず夜半の机に  蝋の灯を吹き消したれば蚊帳ぬちに匂い流れぬいまは眠らむ  団扇白くおかれし畳が蚊帳越しに暁(あけ)のひかりにうかびて見ゆる

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万葉集全釈(493)

四九三 置きて行(ゆ)かば妹(いも)恋ひむかもしきたへの黒髪敷きて長きこの夜を 田部忌寸櫟子(たべのいみきいちひ) 置いて行ったならば、あなたは恋しがるだろうか。黒髪を敷いて寝る長いこの夜を。 かも=疑問 しきたへの=黒髪の枕詞 黒髪敷きて=女性が一人で寝る様子

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万葉集全釈(492)

田部忌寸櫟子(たべのいみきいちび)が太宰に任じられた時の歌四首 四九二 衣手(ころもで)に取りとどこほり泣く子にもまされるわれを置きていかにせむ  舎人吉年(とねりのよしとし) 衣の袖に取りすがって泣く子ども以上に悲しむ私を置いて、あなたはどうするのでしょう。 田部忌寸櫟子が太宰府に転勤することになって、舎人吉年(女性)が別れを悲しんで読んだ歌である。

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首藤隆司の童謡・唱歌「城ヶ島の雨」

燕三条FMラジオハート番組「首藤隆司の童謡・唱歌」バリトン独唱 首藤隆司 第497回(2019年6月13日) 首藤隆司の童謡・唱歌  こんにちは首藤隆司です。  梅雨の時期なので、雨の歌を歌いましょう。今日は「城ヶ島の雨」を歌います。島村抱月の率いる「芸術座」の第1回音楽会が1913年(大正2年)に開かれ、そのために作詞を北原白秋に依頼し、作曲を梁田 貞(ただし)が担当しました。音楽会は大成功で、この曲は学生たちの間で歌われました。いま城ヶ島大橋の袂にこの詩を彫った大きな石碑が建っています。

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私の好きな現代短歌(253)

手巻煙草はばかりもなく売られおりこの闇市の露地の一角    岩間正男  配給以外のタバコの販売は禁止されているのに、この闇市の露地の一角では、何のはばかりもなく手巻きタバコが売られている。  主食の米、麦はもちろん、酒、タバコ、衣料品などは勝手な売買は禁止されていたが、町のあちこちに露天の市場が出来、そこでは公然と、あるいは非公然で何でも売られていて、闇市と呼ばれていた。値段は高く闇値と言われたが、生きていくために必要な物品はそこで手に入れるしかなかった。いま私たちや子や孫が生きているのは、法律を犯して闇の品物を手にしたからだとも言える。  鳥の腹露店に裂きいる男いて晦日の夜露ひかりそめたる  闇市よりそらすひとみに雪雲の光りうすうすと夕焼くるなり

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万葉集全釈(491)

四九一 川の上(へ)のいつ藻の花のいつもいつも来ませわが背子(せこ)時じけめやも 川の上のいつ藻の花のように、いつもいつも来てください貴方、来て悪い時などありませんよ。 川の上のいつ藻の花の=「いつも」を言い出すための序詞 いつ藻=「いつ」は藻をほめる接頭語 時じ=その時ではない けめやも=反語

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